神様には悪いことはいわないで

神様には悪いことはいわないで

〔1994年8月〕

男の子をもつと、幼稚園でけがをして帰ってくるのは、覚悟しておかなくてはならない。

元気に帰らせて頂くとお礼申さずにはおれない。

ある日、制服の左肩の名札の部位が引き裂かれて帰ってきた。これは、ただ事ではない。

子どもは、皆の前では平気な顔をしていたが、帰ってから、「名札はどうしたの?」と尋ねた途端、「名札がないんだ」と泣き出した。

「バスに乗る時はあったの?」

「なかった」

「幼稚園にあると思うから、電話しておくわね。でも、どうして制服に名札がついてないの?」

「N君に引っ張られた。N君が悪いんだ」

泣いていた顔が悔しい顔に変わった。

「いつのこと? 給食の前?食べてから?」

「食べる前」

「その時泣いた?」

「泣かなかった」

「名札はどうしたの?」

「拾ってカバンに入れたの」

「それから名札を触ったの?」

「触った」

「先生にお話しなかったの?」

「しなかった」

「どうして?」

「だって、しなかったんだもん」

だいたいのことは分かった。

すぐ幼稚園に電話をするが、先生は送迎バスから戻られていなかった。

「教会へ行く」「名札がみつかるようにお願いしよう。 神様に正直にお話しよね」

車が教会へ向けて走りだして暫くして、「僕も悪かったんだ」とポツリと言った。

「どうして? 何かしたの?」

「テレビの所で通せん坊したの」

「通せん坊したらおもしろいと思ってしたやろうけど、N君にとっては嫌なことやったのね。 のいてとした時名札を引っ張ってちぎれてしまったの。名札がちぎれたの嫌やったね。N君も通せん坊嫌やったのよ。 人の嫌がることはしないようにね」

先生にお話しなかった理由が分かった。

もうすぐ教会に到着という時、「神様に悪いことはいわないで」 本当のことを親に言っても、まだすっきりしない表情だ。

「いいことも悪いことも何でもお話しないと。お母さんも悪いことをした時は、ごめんなさいって言うのよ。神様は、いいことも悪いこともちゃんと知ってくれている。正直にお話すると許して下さるよ。僕も悪かったって正直に言えて、とっても偉かったね」

教会では、子どもに代わりお届けさせて頂く。

「本当のことをお話できて偉かったな。 名札見つかるといいな」と言って下さった。

うちの子に限ってとまで思っていないにしても、自分の子はかわいい。信じたいと思う。 本当のことを分からせて頂き、有り難いと思った。

もし、教会へ行く前に電話がつながっていたら、言葉に出さずとも、制服を破られたという感情のまま先生を責める心で話をしていたであろう。

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